ジャングル・ブック


 白コブラは、さけんだ。
「気をつけろ、人間よ。そいつにころされぬようにな!そいつは『死に神』だ。この町の人間ぜんぶをころす力がある。おまえも、長くはもっておられまい。おまえからそれをうばうやつも、おなじこと。人間は、そいつを求めてころしあうのじゃ。わしの力はもう、涸れたらしい。だが、その棒がかわりにはたらいてくれる。そいつは『死に神』じゃぞ。よっくおぼえておけ!」
 モーグリは、穴からはいでて、もとの道にでた。最後にふりかえったとき、白コブラは毒をうしなった毒牙で、床にころがっているおだやかな顔の神の像に、やたらとかみついていた。
「死に神じゃ!死に神じゃ!」とわめきながら。


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 モーグリは「冷たいねぐら」での冒険を、最初から最後まで話した。(黒ヒョウの)バギーラはそのあいだ、棒のにおいをかいでいたが、モーグリが白コブラの最後のことばをいうと、低い声でうなった。

「おれは、ウーダイポールの宮殿のおりで生まれた。人間がどういうやつらかは、よくわかってるつもりだ。たいていの人間が、その大きな赤い石ひとつのためだけでも、ひと晩に三人くらいは人ごろしをしかねないと思うぜ。」
「でも、こんなに重い石がついてたんじゃ、使いにくいだけだよ。」



“ジャングル・ブック”
著・ラドヤード・キップリング
訳・岡田好恵
講談社刊